夏の日の終わりに
 僕は何に苛立っていたのだろうか?

(あいつらが羨ましかったのか? 普通に付き合ってるあいつらが……)

 たぶん僕はあの同級生を見下していたのだろう。そいつが僕が障害を持ったことで態度を大きくしたこと、不自由なく付き合える彼女を連れていたことが気に入らなかっただけだ。

 それが何だっていうんだろう……

 泣きじゃくるいたいけな姿に胸をえぐられる思いだ。理子はそれを自分のせいだと言った。そう思わせてしまった自分に激しい憤りと恥ずかしさを覚える。

(俺のプライドがなんだってんだ……理子は、こんなにも……)

 こんなにも苦悩した日々を送っているというのに。

「理子、ちょっと持ってろ」

 僕は理子に松葉杖を預けると、車椅子に体重を乗せて押した。Uターンするとそのまま今来た道を引き返す。

「脩君、大丈夫? ちょっと速くない?」

「大丈夫大丈夫」

 確かに足を運ぶたびに鈍い痛みが走る。事故のあと、これだけの速度で歩くのは初めてだった。

 それでもそんなことは気にしていられない。早く戻らないと過ちを正せないかもしれない。

「いた!」

 その先に同級生のカップルが見えた。僕は遠くから呼びかける。

「おい、さっきはすまん」

 振り向いた彼らは、やはり気まずい思いをしていたのだろう。僕の姿を認めると、ほっとしたような表情を見せた。

「言い忘れたけどこいつ、俺の彼女じゃなくて恋人だから!」

 思ったよりも大きな声だったようだ。彼らだけでなく、さらに遠くの散歩をしてる人々までが顔を向けた。

(恥ず!)

 確かに恥ずかしかった。でも気分は良い。

 そのまま彼らの反応を確かめる間もなく再び逆方向へと走り出すと、車椅子が揺れてタイヤがガタガタと音を立てた。

 揺れる頭を向けて理子が笑う。それを見て僕も笑った。

「恥ずかしいよ」

 そんな素振りには見えない。

「俺もな」

 もうとっくに同級生の姿は見えなくなっていたが、僕はそのスピードが心地よくてそのまま走った。

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