夏の日の終わりに

幕切れ

 寒さを感じさせないほど賑やかなイルミネーションで街は着飾っていた。

 鳴り響くジングルベル、楽しげに歩く恋人たち、ティッシュを配るアルバイトでさえサンタ服を着てはしゃいでいるように見える。

 そんな街中を、僕は松葉杖をついて一人歩いていた。

「贈り物ですか?」

 やたらと化粧の濃いジュエリーショップの販売員は、僕がガラスケースに目を留めるなりそう言った。

「はあ、まあ……」

 クリスマスイヴに男がジュエリーの物色をしているのだ。聞くまでもないだろうが、それなりにマニュアルのようなものがあるのかも知れない。

「彼女さん?」

「はあ、まあ」

 その店員は彼女はいくつくらいだとか、どんな感じの娘かだとか、背はどのくらいだとかを矢継ぎ早に質問すると、所狭しとショーケースの上に商品を並べ立て、こちらの言葉を挟ませない売込みを始めた。

(だからさ、高いんだってば)

 さすがに百貨店のジュエリーショップでは高校生の僕には手が届かないものばかりだ。かと言って手が届く範囲のものでは気に入ったものは見当たらない。

 買う気がないのに引き伸ばすのは相手にとっても迷惑だろう。僕はそそくさと店を後にして、比較的若者向けの店が多い地下街へと降りた。

 散々探し回って、ある一軒の店の前で足が止まる。

(これ……良いな)

 正面のケースに入った赤い石がついたペンダント。値段も手頃で、これなら予算内に収まる。


 僕はそれを手に取った。
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