君の音
03
「おい、早く起きろ」
耳元で大きな声が聞こえ、条件反射でうちは飛び起きた。
ゴツっという音が聞こえたけれど、何の音だろうか?
うちが首を傾げていると、不意に右隣から微かな笑い声が聞こえた。
見ると、そこには沖田さん。笑いを堪えているようだが、堪えきれていない。
「てめぇ・・・」
反対から低く怒っている声が聞こえた。
振り向くと、そこには鋭くも綺麗な顔でうちを睨んでいる土方様が。
よく見れば、顎が赤くなっている。・・・もしかして・・・
「あのー・・・土方様の顎が赤いのは・・・」
「てめぇの頭が当たったからだろうがァッ!」
あ、やっぱり?
ダメじゃね?うち土方様を傷つけてね?
「申し訳ございませぇぇぇぇん」
光の速さで畳に頭をつけて、THE☆DOGEZA
「プッ・・・アハハハハハッ」
沖田さんが横で大爆笑している。
「総司、笑ってやるな。可哀想だろうが」
土方様の慰めじゃ無い慰めがうちを癒して・・・くれるわけなかった。
「そう言えば、てめぇの名を聞いてなかったな。名を言え」
え?ああ、そう言えば・・・聞かれてなかったわ。
うちは恐る恐る頭をあげて、土方様を見た。
黒い瞳がうちを吸いこみ、逸らせなくした。
「うちの名前は、土方兎吏<ヒジカタウリ>です」
答えた途端に、また沖田さんが笑いだした。
土方様は、絶望したような顔になっている。
え、何?うちの名前、そんなにダメなの?
元服とか出来ないよね、うん、そうだよね。
「・・・その名を今後一切名乗るんじゃねぇぞ・・・」
土方様の嫌そうな声が聞こえて、うちは驚いた。
え、自分の名前、名乗っちゃいけないの?
「なんで、名乗るのは駄目なんですか?うちはナナシになれってことですか?」
うちは思いっきり不満そうな顔で言った。
「色々面倒な事になるから、だ・・・今日からお前の名前は平塚聖だ。分かったな?」
鋭く冷たさが混じっている瞳で見られ、うちは何も言えなくなった。
この人は、うちが思っていた土方様とは違うくて、本当の鬼のよう。
うちが愛した人は、本当の鬼だったってわけ?