lacrimosa
―――5年後。
「―――あの、すいません。ちょっといいですか?」
サングラスをかけたまま、ブックカフェの椅子に座って本を読んでいた18歳のサーシャ。
すると、向こうから1人の少年が近づいてきて、サーシャに話しかけた。
『…え』
「その、後ろにある本が取りたくて」
にっこりと、爽やかな笑顔ではにかむ少年。
椅子の背もたれが邪魔していて、少年が手にしたい本が取れなかったのだ。
「…すいません」
『―――い、いえ、』
サーシャがわずかによろめいて立ち上がると、少年は微笑んで少し頭をさげ、目当ての本を手にとった。
少年はそのままサーシャの向かいの席についてその本のページを開く。
(……………)
サーシャは呼吸をしながら、それをじっと見つめていた。
しばらくすると店員が少年にミルクティーを運んできた。
少年は店員に軽く会釈して、一口それを飲むと、また本に集中する。
―――〈天使の羽根〉
それがその本のタイトル。
サーシャも一度読んだことのあるその本は、少し悲しい童話だった。