lacrimosa
深緑色の制服に身を包んでいる少年は、この近くの高校に通っているんだとわかる。
端正な顔立ちと透き通るような肌は典型的な美少年で、さっきはにかんだときなんかは最高に格好良かった。
(……………)
サーシャは徐にサングラスを外し、今では真っ黒に染めた髪を後ろに払って、その美貌で少年を見つめ続ける。
すると少年は気がついたのか、目線を本からあげてサーシャの顔をみた。
「…あ」
格好良さの中に残るあどけなさを漂わせ、少年は口を開けた。
それに満足したようにサーシャは口角をいっぱいにあげて微笑む。
(…やっと気づいた)
「わぁ。本物ですか?驚いたなぁ…、」
ところが予想外に少年が口にしたのはそんな言葉で。
周りの目を気にしているのか小声でサーシャに話しかける。
「有名な女優さんですよね?…僕凄く、あなたのファンなんです」
以前よく見ていたその照れたような表情は健在で、真っ白な頬がわずかに上気していた。
(…………………)
サーシャがふいをつかれたように拍子抜けした顔をしていると、怪訝に思ったのか、少年が首を傾げる。
『わ…わぁ、ほんと?嬉しい』
一呼吸置いてから、ふたたび笑顔を浮かべてサーシャがそう返した。
すると少年は安心したように上目遣いにサーシャをみては、唇を少し噛んで微笑んだ。
けれど分別とわきまえがあるのか、これ以上はサーシャに迷惑がかかると懸念したのか、
幸せそうなその瞳は、ふたたび本のページへと向けられてしまう。