lacrimosa
(……………)
カランコロン、と出入りがある度に鳴るドアの鐘。
おもての道路を走る車の音、人々の談笑。
ショーウインドウのような大きなガラス窓の向こうを通り過ぎる通行人。
その中に時々、少年と同じ制服を来た生徒たちが通り過ぎ、少年に手を振っていく者もいた。
(…………)
少年は屈託ない爽やかな笑顔で、サーシャが見たこともない見知らぬ友人に手を振り返す。
その度にその青い瞳は煌めいていた。
『―――その本、』
しばらくして、サーシャが少年の読んでいる本を指差して言った。
『その本、私も読みました』
「本当に?僕は何故か、時々無性に読みたくなってここに来るんです」
少年は幸せそうに笑って、その背表紙を撫でた。
「夢の中で逢ったような、そんな懐かしい人を思いだすような…不思議な気持ちになるんです」
変ですよね、と照れくさそうに少年は話した。
サーシャは彼の瞳をじっと見つめていた。
「変、じゃないですよ。偶然ですね、私も似たような気分になるんです」
『面白いですね…』
「私たちきっと、似てるんじゃないかしら」
少年は長い睫毛を伏せて微笑み、ミルクティーを口にした。
『ねぇ、お名前なんていうんですか?』
「僕?僕はアンジェロっていうんです」
恥ずかしそうにそう言ったアンジェロからどことなく、記憶に馴染んだミルクと太陽の香りがした。
(…きっと、ミルクティーのせいね)
サーシャはゆっくりと少年のカップに手を伸ばし、それを一口飲んだ。
アンジェロは少し驚いたような顔をして、まばたきを繰り返す。
サーシャはそれを気にするふうでもなく、一口飲んで口端を舐めた。
切なさは最高のスパイスになっていた。そのせいでどこかほろ苦い味がする。
――――それは、18歳にしては甘い甘い、贅沢なファーストキスだった。