lacrimosa
「…はぁ」
ため息を吐いて次の駒を乱暴に置くサーシャ。
アンジェロはどこか宥めるような視線を彼女にくべてこう言った。
『本当は心配なんでしょう?』
眉尻のさがったアンジェロの憂いがかった表情は悲しげで、それでも優しく笑っている。
まるで幼い子供の失敗を見守る親のように。
「なんで」
『僕にはわかるんだ』
「なにが」
『人間の心の中が…』
その言葉にサーシャは反応して顔をあげる。
アンジェロと初めて出会ったとき、彼は言っていた。
サーシャが心で泣いていたのが聴こえた、と。
(…読めるの?)
頭の中でそんなことを考えていればアンジェロは優しく肯く。
『サーシャは本当は優しい女の子なのに。どうしてそんなに人間を嫌うのかなぁ』
(…だって、)
アンジェロと出会う前までの中身のない毎日を思い出す。
(…だって、みんな私をみてくれないじゃない)
上っ面だけの媚びた態度などもう、うんざりなのだ。
『――ママとパパに、寂しいんだって、言えばいいのに』
澄ました顔で駒を置き、なにもかもわかっているようにアンジェロが言う。
(…にこにこにこにこにこ)
幸せしかしらないアンジェロにはわからないじゃない。