lacrimosa
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「―――天使が私を助けてくれたの!」
廊下で甲高い声がそう叫ぶのを、学校へ来たサーシャは耳にした。
「―――幸せになれる羽をくれたのよ」
その声は嬉々として語る。
サーシャが自然に眉を寄せてそちらのほうを向けば、最上級生のシェイラ・ジョンソンが数人の親友に囲まれていた。
「エリザベスが病気だったの。でも羽を握ってお願いしたら元気になったの!」
白い歯を光らせて、巻き髪のシェイラは頬を上気させながらペットの犬が助かった話をしている。
周りの取り巻きは彼女の頭がおかしくなったと思ったか、新しいジョークかなにかだと思ったらしく、苦笑いであしらっていた。
(…アンジェロだ、)
シェイラの話が嘘ではないとすぐにわかったサーシャは舌打ちしながらそう思った。
アンジェロの仕事が人間を幸せにすることだというのは知っている。
だけど、あんな気取り屋で意地悪の、ビタミン不足みたいな肌をしたシェイラなんかをわざわざ、なんて嫌な思いが湧いたのだ。
(…私、嫌な子)
アンジェロは正しいことをしている。
まっさらな天使で、私だけが彼にとって特別なわけではないことくらい、頭ではわかっているのに。
サーシャはシェイラに嫉妬していたのだ。