lacrimosa
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「シェイラに羽をあげたでしょ、」
その週末の午後、やっと部屋に顔をだしたアンジェロに開口一番にそう声をかけた。
『シェイラ…?』
「シェイラ・ジョンソン。学校で、大声であなたのこと話してた」
む、と顔をしかめ、責めるような口調になってしまうサーシャ。
一方アンジェロは窓枠からふわりと着地して、いつものようにサーシャの横に腰掛けた。
『うん、あげたかもしれないね』
「覚えてないの…?」
『サーシャが思ってるより、僕はずっと多くの人に羽をあげに飛び回ってるから、すぐには名前が思い出せなかった』
ブロンドの毛束をくるくると弄び、あさっての方向をみるアンジェロ。
その悠長な態度に、サーシャはわけもなく苛ついた。
(…気のせいじゃない、またやつれてる)
この前も感じたアンジェロの異変。思い過ごしだと思ったがやはり、今日は一段と様子がおかしい。
以前より少し痩せた。
瞳に僅かにかかる影。
屈託のない笑顔が、今日は少し苦しそう。
「アンジェロ…」
『ん?』
「羽、そんなにあげちゃったら、アンジェロどうなっちゃうの?」
先日も訊いたような質問をまた繰り返す。
あの時大丈夫だと言っていたけれど、その言葉はきっと嘘を孕んでいる。
(…アンジェロ、何か隠してる)