lacrimosa







***



「シェイラに羽をあげたでしょ、」


その週末の午後、やっと部屋に顔をだしたアンジェロに開口一番にそう声をかけた。




『シェイラ…?』

「シェイラ・ジョンソン。学校で、大声であなたのこと話してた」


む、と顔をしかめ、責めるような口調になってしまうサーシャ。

一方アンジェロは窓枠からふわりと着地して、いつものようにサーシャの横に腰掛けた。




『うん、あげたかもしれないね』

「覚えてないの…?」

『サーシャが思ってるより、僕はずっと多くの人に羽をあげに飛び回ってるから、すぐには名前が思い出せなかった』


ブロンドの毛束をくるくると弄び、あさっての方向をみるアンジェロ。

その悠長な態度に、サーシャはわけもなく苛ついた。



(…気のせいじゃない、またやつれてる)



この前も感じたアンジェロの異変。思い過ごしだと思ったがやはり、今日は一段と様子がおかしい。


以前より少し痩せた。

瞳に僅かにかかる影。

屈託のない笑顔が、今日は少し苦しそう。




「アンジェロ…」

『ん?』

「羽、そんなにあげちゃったら、アンジェロどうなっちゃうの?」


先日も訊いたような質問をまた繰り返す。

あの時大丈夫だと言っていたけれど、その言葉はきっと嘘を孕んでいる。



(…アンジェロ、何か隠してる)










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