lacrimosa
サーシャがそう言ったあと、アンジェロはハッ、と瞳を見開いた。
そして、しばらくサーシャを無言のまま見つめつづけていた。
(…ア、ンジェロ、)
『―――そうかもしれないね』
数分後、俯いたアンジェロから発せられたのは、何かを諦めたようなそれ。
『僕、―――君の言う通りかもしれないよ』
(…え、)
躊躇いなくサッと立ち上がると、随分大人びた口調でアンジェロはそう言った。
サーシャはその背中を見上げるが、表情はわからない。
けれど、その真っ白い背中が今までになく大きく感じて、何を背負っているのかと気になった。
「―――アンジェ、」
ごめんなさい、そう一言言えば済むのに、乾いた口からはそれがでてこない。
窓のほうへ歩み寄り、帰ろうとしているアンジェロへ向けて後を追うようにだらしなく伸びた手。
『今日は帰る』
「アンジェ、……」
『でもサーシャはもっと、自分を見つめなおしたほうが、いいと思うよ。
―――天使なんかじゃないけど、僕からのアドバイス』
アンジェロは最後にそう言うと、真白の翼をバサリと広げ、青い空と陽の光の中へ消えていった。