lacrimosa
―――人間に幸福をもたらす
それが天使の役目だ。
この翼にはそれなりの力が備わっていて、一生のうちで幸せにできる数には限りがある。
それは翼に生えた羽の枚数に相当するのだ。
アンジェロはまだ人間と関わりを持ったことがない。
人間でいう13歳という年齢ではまだ見習い中の身であり、いつも父のあとをついてまわっていた。
(…もう、パパはいないんだ)
独りぼっちになった今、自分自身の足でしっかりと立たなければならないとアンジェロは思い始めた。
せめて、パパの名を引き継げるように。
そして天使であるということがどういうことなのか、その意義を探すために。
(…僕がしなきゃならないこと)
それは幸せにするべき対象をもっとよく知って学ぶことだ。
(…人間を探しにいこう)
ママが好きになった人間。
天使が見守る人間。
僕が幸福を与えられる存在。
(…人間ってどんなだろう)
天上から眺めているだけじゃ、わからないこともある。
そう思い立ったある日、アンジェロは意を決してその翼を広げ、祈りの塔の窓から飛び立った―――。