lacrimosa
「はーあ、なにしよっかな」
画材を整理して、言われた通り床もピカピカに磨いた。
壁にかかった時計を見遣ればまだ11時を回ったあたり。
(…バスチアン、腹空かせてないかな)
今朝、弟バスチアンに与えた食事は具のないスープにカビの生えた部分を抉った堅いパン。
きっと、あの暗い部屋でひもじい思いをしているだろう。
(…あ)
床の側溝にはまった小さな鉛筆を見つけたリュカ。
意気込んで赤い舌を僅かに出し、腰を屈めるとそれを摘む。
「…抜けな、い―――くっ!」
埃まみれになった小さな小さな鉛筆はやっとのことで姿を現した。
長さ7センチばかりのそれはもう誰も使わないであろう代物。
(…あいつ、絵が好きだよな)
バスチアンは絵を眺めることが好きだった。
絵も然り、綺麗で美しいものが好きなのだ。
(…バスチアンは俺と違って心が綺麗だから、)