縁隔操作(えんかくそうさ)
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「おまえなあ……よりによってこの時期に、一体どういうつもりだ?推薦取り消されたいのか?おまえの推薦入学認めてもらうのに、俺たちがどれだけ苦労したと思ってるんだ?」
 担任の先生から、海より深いため息交じりにこう言われたら、俺も返す言葉がない。ここは素直に謝っておく事にした。
「はあ、すいませんっス」
 昨日の夕方、道で女の子にからんでいた不良を撃退してやった。相手は三人だったが、よってたかってか弱い女子にからむような連中だから俺一人でコテンパンにのしてやった。そこまでは良かったのだが、近所の人に警察呼ばれたのはさすがにまずかった。四月に入学する事になっていた高校の、推薦入学の資格を取り消されるかどうか、そんな深刻な展開になるとは、予想していなかった。
「あ、あの、先生……やっぱり、推薦はもうダメッスか?」
 中年の、でっぷり肥った担任の先生は、いきなり俺の目の前に一枚の紙切れを突き出した。下半分に市内の地図があって、一番上に「理科学研究所」と大きく書いてある。
「明日の午後三時に、そこへ行け。そこで、森島さんという学者の先生がおまえを待っている。話次第では、推薦の取り消しはカンベンしてもらえるかもしれん」
「はあ?それで俺は何をするんスか?」
「それは、その森島教授が説明してくれる。ただし、おまえを使ってくれるかどうかは、行ってみなけりゃ分からん。うまく行けば推薦入学はそのまま、だめならそこまで、だ」
 先生はそう言って右の手の平を自分の首の前で横に素早く振った。
 というわけで、俺は翌日の日曜日、せっかくの休日だってのに学校の制服着こんで、年の暮れも近い寒空の下、出かける事になった。
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