縁隔操作(えんかくそうさ)
「では、アキトさん。あのう、さっそくお願いしたい事があるのですけれど……」
 そのロボット、いやユリアはやや遠慮がちに言った。どんな子なのかは見当もつかないが、俺なんかと違っていかにも育ちがよさそうな感じのしゃべり方だな。
「はあ、何ですか?いや、もう、何でも言って下さい。それが俺の仕事ッスから」
 さすがに高校の推薦入学取り消しになるかどうかがかかっている、とは言えなかったが。
「そうですか……実はわたし、初詣という物に行ってみたいのです。ものごころついて以来、一度も行った事がなくて。それで連れて行っていただきたいのですが」
「なんだ、そんな事ッスか。それならお安い御用ですよ。ああ、でもあまり遠くへは行けないんですよね。筑波山神社でよければ」
「はい、そこで結構です。本当によろしくお願いします」
 そう言ってユリアは今度は深々と俺に向けてお辞儀した。
 それからまた一週間後。混雑を避けてユリアを筑波山神社に連れていくのは一月四日にした。この辺りではわりと有名な神社らしくて三が日はけっこう混むからだ。いくら良く出来ているとは言っても、近くで見ればロボットだという事は誰でも分かるから、人ごみの中に連れていくのはまずいだろ。
 駅前のバスターミナルに着くと、通りの向こうからユリアが近づいて来るのが見えた。だがなんか様子が変だ。歩き方は本物の人間と見分けがつかないぐらい自然なんだが、うつむいて何か手に持った小さなバッグで顔を隠すようにしている。俺のそばまで来てペコリと頭を下げる彼女に俺は訊いた。
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