縁隔操作(えんかくそうさ)
 俺はヘルメットとゴーグルみたいな機械を頭からはずした。いや、すごい技術だ。でもやっぱりあの機械を通して見る風景はちょっと現実と違いすぎる。俺は思わず指で両目を両側から揉んだ。それを見透かしたかのように教授が、相変わらずニコニコした表情で言った。
「どうです?最初にあの視覚センサーで私を見て、それから初めて本物の私を見たとしたら……私だと分かりましたか?」
「いや、それはやっぱ無理だと思うッス。まあ、町を歩くぐらいは大丈夫そうですけど、物の細かい違いまではちょっと……」
「そう、そこなんですよ!」
 教授は俺を元の部屋に連れ戻しながら急に語気を強めた。また机に向かい合って座ると教授は少し興奮した感じで、続けざまに俺に向かってまくし立てた。
「ロボットの動きや音声の伝達は現在の技術なら簡単に制御できます。しかし、視覚、これだけはまだあの程度、あなたがさっき見た変な感じの映像、まだあのレベルなのです。健常者は脳に伝わる情報の五割から七割を視覚から得ていると言われています。たとえベッドに寝たきりの人でも、ロボットの体を使って街へ行き人と触れ合う。これは障害者にとっては夢のような話なのです。しかし、操縦者に伝わる視覚情報があれでは……今回の実証実験の最大の目的は、遠く離れた所からでも人間の肉眼に近い情報伝達を可能にする、そういう風にロボットを改良する、そういう事なのですよ、はい」
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