縁隔操作(えんかくそうさ)
 それから一週間後、クリスマスも終わり、ものの見事に何も起こらずに終わり、その年の終わりも近い日になって俺は再び森島教授に呼ばれ、例の研究所へ行った。教授の部屋に入ると俺に背を向けて女の子が一人立っていた。
 いや、なんか変だ。肩甲骨のあたりまでのストレートロングの髪だが、なんかカツラみたいに見える。横に並んでその子の顔を見て、俺はやっと気づいた。これはロボットだ。遠くから見たらすぐには人間と見分けがつかないかもしれないが、肌や目は明らかに造り物だと、近くで見るとはっきり分かる。
「あの、森島先生。ひょっとして、この女の子型のロボットが?」
 教授は相変わらずホッホッホッ、と女みたいな笑い声をあげながら、そのロボットの肩に手を置き俺の方に向きを変えさせながら言った。
「はい。これが君に今回エスコートしてもらう、被験者の脳波で遠隔操作するロボットです。被験者の女の子はもう装置をつけてスタンバイしています。では、二人ともあいさつを」
 するとその女の子型のロボットは、本物の人間に比べればぎこちないが、想像以上に自然でスムースな動きで俺に向かって頭を下げた。
「これからよろしくお願いします。わたしの事は『ユリア』と呼んで下さい」
 その声は本物の人間の声だった。どこか別の場所にいる、操縦者の女の子の声がそのまま無線でロボットの口の中のスピーカーから流れているそうだ。しかも動きは適当なんだろうが、しゃべるのに合わせてロボットの唇も動いた。
 俺はあわてて頭を下げあいさつを返した。
「あ、いや、こっちこそよろしくッス。俺はアキトでいいッス」
< 9 / 33 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop