白頭山の残光
 やっと列車に乗り込み、列車が地上部分へ出ると、ソンジョンはまるで小さな子供のように窓ガラスに顔を押し当て、車窓の外を流れる風景に見入っていた。
「すごい!これが噂に聞いていたシンカンセンという物か」
 美里は思わず座席から滑り落ちそうになった。そりゃ、つくば「エクスプレス」というぐらいだから、他の在来線よりは多少スピードは速いだろうが、いくらなんでも新幹線と間違えるか?美里は頭を抱えながらツッコミを入れずにはいられなかった。
「あのね、今時速100キロ程度よ。新幹線と言うのは、時速300キロぐらいのやつをそう呼ぶの」
「300キロ!飛行機並みじゃないか。それじゃ、この列車は新幹線ではない、ただの一般人用の鉄道なのか」
「そういうこと。それと、新幹線だって一般人用の列車よ。切符の値段が高いだけでね」
 つくば駅に着き地上に出る。美里の車を置いてある駐車場まで歩く途中、市内の大学生らしいグループと何度かすれ違った。全員暑いのに濃紺のスーツに身を包んでいる。どうやら就職活動中の学生たちらしかった。
 ソンジョンがまた美里に訊いて来た。
「あれは何の制服だ?いや、制服にしてはおかしいな。全員微妙に服の形が違う」
「ああ、リクルートファッションてやつよ。就職先を探してあっちこっち回っているわけ」
「ちょっと、待て。大学生が自分で就職先を探していると言ったのか?」
「そうだけど?」
「なんて扱いだ!大学生に自分で勝手に仕事を探せと言っているのか、日本の政府は?」
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