白頭山の残光
「それでソンジョン、あんたはどの成分なわけ?」
 ソナの問いかけに返って来た答えは、美里もソナも唖然とする物だった。
「それは知らない。と言うより、一般人民に自分の成分が何か知らされる事はないし、知る方法もない。自分がどの成分に属しているか知る事が出来るのは、党や軍の最高幹部ぐらいだ」
「けど、あんた自分は、その成分がいいからって言ったじゃない」とソナ。
「俺の場合は、父方母方両方の祖父が祖国解放戦争に志願して従軍し、父方の祖父は手柄を立てて勲章までもらった。だから俺は少なくとも核心階層のはずだし、そのうちの13ぐらいの成分の、真ん中ぐらいのはずだ。その程度の推測はつく」
 祖国解放戦争?いぶかしげな表情をした美里にソナは「朝鮮戦争の事よ」と言って、またソンジョンに顔を向けた。
「じゃあ何?北韓の庶民はその成分で将来が決まるわけ?」
「まあそうだ。俺は兵役の途中で正式に軍に編入されたが、大学出で俺よりはるかに強くて頭のいい先輩がいた。その人は兵役の後、炭鉱に配属された。父方の祖父母が解放前に会社を経営していた資本家だったから、その先輩は敵対階層の成分だったんだろう」
「は?朝鮮戦争、いえ北韓で言う祖国解放戦争は1950年から1953年よね。その後もその先輩は金持ちのお坊ちゃんとして育ったわけ?」
「いや、その先輩が生まれた時には両親は田舎で農民をやっていたと聞いた。幼いころから貧しい暮らしだったとよく聞かされた。元山(ウォンサン)の街で生まれ育った俺なんかより、はるかに苦労した立派な人だった」
「それで炭鉱の管理職にされたわけ?」
「そんなわけはない。炭鉱の労働者として、だ。石炭を掘る方の仕事だよ」
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