白頭山の残光

　１９９７年、タイの通貨バーツが突然急激に価値が下がった。現在で言うハゲタカ・ファンドのような国際的な投機家集団が仕掛けたと言われているが、本当の原因は未だによく分かっていない。
　自国の通貨の価値が下がると輸入品の値段が高騰し、その国の経済に悪影響を起こす。タイのそれはあまりにも急激かつ大幅な下落だったため、国の経済は大混乱に陥り多くの企業が倒産し、失業者があふれた。
　そしてその突然かつ急激な自国通貨の価値の下落は他のアジア諸国にも波及して行き、韓国の通貨ウォンも最終的に４０％の価値下落に見舞われた。当時もうすぐ先進国の仲間入りを、という期待の高まっていた韓国経済は致命的な打撃を受け、韓国の国債は債務不履行、つまり大韓民国という国家そのものが破産するという状況の寸前にまで追い込まれた。
　日本、アメリカを含む先進各国は韓国にも経済支援を行ったが焼け石に水でしかなく、韓国はIMFという国際機関から莫大な借金をして、かろうじて国そのものが破産するという最悪の事態を回避する事が出来た。
「でも、韓国は奇跡の回復を果たしたわけでしょ？」
　そういう美里に、ソナはかすかに首を横に振った。
「確かに国全体の経済は復活したわ。でも、それは国民の大多数を切り捨てる経済改革によって、だった。金持ちと貧乏人、エリートと落ちこぼれ、勝ち組と負け組、国民をその二つに分けて、政府は後者を相手にしない」
「でも、それは日本だって同じみたいよ」
「今の韓国の貧富の差は日本とは比べ物にならない程大きいわ。９０年代の終わりごろから日本に不法滞在してホステスや売春婦になる韓国人の女が増えたって話聞いたことない？」
「あ、それは確かに」