白頭山の残光
「通貨危機以前には何の分野でも韓国にはいくつもの会社があった。でも政府は、エレクトロニクスならサムスンとLG、自動車ならヒュンデだけ、という風に一つか二つの企業だけ残してあとは解体した。だから、今の韓国では大企業に就職出来るのは、すさまじい受験競争を勝ち抜いた中の、さらにほんの一部。さらに就職出来ても、たとえばヒュンデで失敗してクビになったら国内に他に自動車メーカーはない。だからもう自動車会社で働く道は閉ざされる。これが韓国の『奇跡の復活』の中味よ」
「そ、そうなの?」
「皮肉なものね。ソ連が健在だった時代、共産主義諸国は資本主義の国では大半の国民は食うにも困る貧乏生活を余儀なくされていて、一部のブルジョワ階級だけがいい生活をしていると、嘘八百のプロパガンダをやっていた。北韓も韓国の事をそう言っていた。あたしたちはそれを知って笑っていた。でも、冷戦が終わってソ連が崩壊して共産主義の脅威が世界から消滅した後になって、その共産主義プロパガンダの言っていたような社会に変わってしまった。少なくともあたしの祖国ではそう……」
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