白頭山の残光
 翌日美里の部屋に彼女が頼んだ覚えがない宅配便が届いた。大きな段ボール箱が一つ、やけにずっしりと重かった。それはソナが手配したものだった。ソンジョンが北朝鮮を出る時に持ち出した物も入っていると言う。
 三人でその箱を開け、ソンジョンが古めかしい女性用の軍服を二着取り出した。一つは青緑っぽいパンツスーツ型。これはソナの分。美里は無駄とは思ったが一応言ってみた。
「あのさ、あたしが北朝鮮で軍人になりすますのって無理じゃない?ソナはそういう訓練受けてるだろうからさまになるけど」
 だがソンジョンは思いがけない返事をした。
「何を言っている?それは軍服じゃない。学校教師の服だ」
「はあっ?」
 美里は改めて自分用だというその服を見つめた。緑がかった灰色の上着とパンツ、星のマークが一つ赤い帯についた短いつばの帽子。昔中国で使われていた人民服になんとなく似ている。美里の目にはどう見ても軍服としか映らない。
「ミサト、君は大学の研究者なんだから、教師に化けるのは難しくないだろう?」
 そういうソンジョンに美里は黙ってうなずくしかなかった。
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