白頭山の残光
 ソンジョンは、飯椀と美里の顔を何度も見比べながらなおも言った。
「本当に……いいのか?」
 美里は大げさに大きくうなずいて見せた。ソンジョンはおずおずと言った感じで飯椀を手元に引き寄せ、すさまじい勢いでかきこみ始めた。
「うまい!白米だけの飯なんて、何年ぶりだろう……任せてくれ、この恩に報いるためにも、ミサトの身の安全は俺が必ず守る!」
 そして日が落ち暗くなった頃、三人は美里の勤める研究所への潜入を決行した。通用門の鍵はソンジョンの小さな金属棒二本で簡単にこじ開けられ、敷地内の建物の陰づたいにサイクロトロンのある地下施設への入り口に忍び寄る。
 ドアを開ける直前、ソナが手錠を取り出して美里の両手首にはめた。美里は驚いて叫びそうになり、あわてて口を押さえて小声で言った。
「ちょっと!何よ、これ」
「あなたは、あたしたちに無理やり脅されて連れて来られた。そういう事にするって言ったでしょ?大丈夫。見せかけだけでちょっと力入れればすぐ壊れるオモチャだから、それ。
このぐらいの芝居はしておかないと、こっちの世界へ戻った時に美里が言い逃れできないじゃない。そのためよ」
 ソナはそう言うとリュックを背負い直し、腰から小型の拳銃を抜き出した。ソンジョンも大型の自動拳銃を片手に構える。そしてソナが美里を抱きかかえるような格好で、三人は地下施設へ突入した。
 階段を駆け降りたところで早くも警報ベルが鳴り響き始めた。美里の案内でサイクロトロンの内部に通じているドアめがけて、三人は全力で走る。ドアの前には屈強そうな男が二人、自動小銃を持って立っていた。制服は来ていないが、明らかに自衛隊の隊員だろう。後方からさらに数人が駆け付けてくるのが見えた。
 ソナが背後から美里の首筋に腕を回してはがい絞めにし、さらに拳銃の銃口を美里の頭に押し当てながら、男たちに向かって日本語で叫ぶ。
「動くな!この女を殺してもいいのか?」
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