白頭山の残光
「彼女のおじいさんって何をやったの?」
「山の斜面に共同で畑を作っていたんだが、自分の受け持ちの畑に土止めを作った。それで労働教化所へ送られた」
「ちょ、ちょっと待って!」
美里は思わず大声を上げてしまった。
「あたしも農業の経験はないけど、山の斜面を耕して畑作る場合、土止めをするのって常識じゃない?そうしないと雨が降ったら土が流れ出しちゃうじゃない」
「だが、主体農業の指導書には土止めを作れとはどこにも書いてない」
「主体農業?」
「金日成主席と金正日将軍が指導した、農業の理論の事だ。そこに書いてない事をやったら、偉大な主席や将軍の教えに違反する事になる。彼女のおじいさんはそれをやってしまった。そして……それを告発したのが当時小学生だった彼女自身だった」
「自分の祖父を告発した?」
今度はソナが大声で言った。
「どうしてそんな事を?」
「共和国では別に驚く事じゃない。学校の生徒は、自分の家族が共和国の精神に反する言動をしていないかどうか、毎日教師から質問され、反動的な言動をした親を告発した生徒が学校で表彰される事もある。まだ幼かった彼女は、その意味も分からず、学校教師に教えられるまま、いい事、正しい事をしたつもりで、祖父の畑の土止めの事を教師に報告した。その結果、彼女の祖父は労働教化所へ送られた。五年後に戻ってきたが、別人のようにやせ衰えて、翌年亡くなったそうだ。彼女はその時の事をずっと悔いていた」
「山の斜面に共同で畑を作っていたんだが、自分の受け持ちの畑に土止めを作った。それで労働教化所へ送られた」
「ちょ、ちょっと待って!」
美里は思わず大声を上げてしまった。
「あたしも農業の経験はないけど、山の斜面を耕して畑作る場合、土止めをするのって常識じゃない?そうしないと雨が降ったら土が流れ出しちゃうじゃない」
「だが、主体農業の指導書には土止めを作れとはどこにも書いてない」
「主体農業?」
「金日成主席と金正日将軍が指導した、農業の理論の事だ。そこに書いてない事をやったら、偉大な主席や将軍の教えに違反する事になる。彼女のおじいさんはそれをやってしまった。そして……それを告発したのが当時小学生だった彼女自身だった」
「自分の祖父を告発した?」
今度はソナが大声で言った。
「どうしてそんな事を?」
「共和国では別に驚く事じゃない。学校の生徒は、自分の家族が共和国の精神に反する言動をしていないかどうか、毎日教師から質問され、反動的な言動をした親を告発した生徒が学校で表彰される事もある。まだ幼かった彼女は、その意味も分からず、学校教師に教えられるまま、いい事、正しい事をしたつもりで、祖父の畑の土止めの事を教師に報告した。その結果、彼女の祖父は労働教化所へ送られた。五年後に戻ってきたが、別人のようにやせ衰えて、翌年亡くなったそうだ。彼女はその時の事をずっと悔いていた」