白頭山の残光
「じゃあ、その政治犯たちはどこにいるのよ?」
「だから、その村のような場所で暮らしている。収容された時に着ていた服のまま、その陸の孤島のような場所で、一日に掌一杯ほどの家畜のえさ用のトウモロコシと水だけを与えられてな。服はそのうちぼろぼろになるし、冬は凍死者がたくさん出る。だから政治犯収容所は『収容』する事が目的じゃない。何カ月もかけてゆっくりと餓死か衰弱死に追い込むための、処刑場だ。だが、日本とアメリカの経済制裁が始まってから、事情が変わって来た」
 美里もおそるおそる訊いた。
「経済制裁って、核実験やミサイル実験に対するあれよね?それがどうして政治犯収容所に関係があるわけ?」
「制裁を受けた共和国は、中国としか貿易出来なくなった。共和国との国境に近い、丹東(ダンドン)という中国の街がある。朝鮮族が多く住んでいるから、共和国の製品をそこへ輸出する。共和国の製品は質が悪いから、豊かになった中国人は見向きもしないが、丹東に出す品物は質がいいから、高く売れる」
「ちょっと!また話が矛盾してる!」
 ソナが話の腰を折る。
「北韓の輸出品の質は悪いの?いいの?どっちなの?」
「共和国の通常の工場や農場で作る製品はおそろしく品質が悪い。働いても働かなくて収入は同じだし、2000年代になって配給制度が崩壊してからは、誰も真面目に仕事などしない。だからひどい品質の物しか出来ない。農作物は重さで目標達成率が計算されるから、ブヨブヨに水膨れして食べ頃を過ぎた物ばかり出荷する。だから中国では売れない。だが、丹東に輸出する品物は工業製品であれ農作物であれ、すごく質がいい。政治犯収容所で作らせているからだ」
 美里もソナもはっと息を飲んだ。分かったようだな、という表情をしてソンジョンは淡々とした口調で続けた。
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