白頭山の残光
 ソナの発射した弾丸はソンジョンの背中から腹へ貫通していたようだった。血が滴り落ちる腹部を片手で押さえながら、よろよろとして足取りでソンジョンは二人の方へ歩き出す。
 両手で拳銃をかまえたまま、ソナも泣いていた。その両目から涙がぼろぼろと途切れることなく流れ落ちていた。ソナはしゃくりあげながら、ソンジョンに向けて言った。
「青瓦台はもう、本音では南北統一を望んでいない……」
 青瓦台……それが韓国大統領府の別名である事を思い出すまで、美里はまた数秒を要した。まるではるか遠くから響くように、ソナの声が続く。
「あなたに同行して北韓の内情を探り、最後にソンジョン、あなたの計画を阻止する……それが、あたしに与えられた本当の任務だった」
「ソナ……」
 苦しげなソンジョンの声が響く。
「許して、ソンジョン。あなたが自分の祖国を救いたいように、あたしは自分の祖国を守らなければならない……」
 よろよろと近づいて来るソンジョンの顔は、肉体的な物とは別な苦痛で歪んでいた。
「ソナ……俺の祖国と、君の祖国は……もう、同じでは……ないのか?」
「愛しているわ、ソンジョン……だから、もう……もう楽になって!」
 ソナの拳銃が再び火を噴いた。その弾丸はソンジョンの心臓を貫いた。倒れこむソンジョンの体をソナが駆け寄って抱きとめる。ソンジョンの頭を膝に乗せてソナはその場に座り込んだ。
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