妹神(をなりがみ)
 その影のようなやつがまた言葉を発する。確かに人間の声とは思えない。男か女かも分からない、まるで地獄の底から響いて来る怪物のような声だ。
 俺もいつの間にか冷や汗でTシャツがびっしょり濡れていた。確かに普通じゃない、この相手は。それが幽霊なのかどうかはともかく。それに純の幽霊だとしても、なんで悟の所へ化けて出てくるんだ?
「シネ!」
 その影がそう言葉を発した。その瞬間、悟の背中から炎が噴きあがった。
「うわああああああああああああああああ!」
 悟はもがきながら背中を地面のコンクリートにすりつけた。だが、いくらやってもその火は消えない。俺は近くにあった大きなぼろ布をとっさに手に取り、悟の背中に押しつけた。学校の消火訓練の時に習った。何かで火を覆って酸素を遮断すれば消えるはずだ。
 だが、布をいくら押しつけても悟の背中の火は消えない。そして俺は気がついた。肉の焼ける、吐き気のする嫌な臭いがし始めていた。それなのに……悟の服は全然燃えていない!
 そんな馬鹿な。服は焦げ跡ひとつないのに、人間の体だけが焼ける。そんな火や炎があるはずがない!
 ふと気がつくとその黒い影が俺の正面に立ちはだかっていた。そして俺に向かってこう叫んだ。
「ジャマヲスルナ!」
 その人影の右腕がすばやく横にさっと振り払われた。そして俺はそのまま、宙を三メートルは後ろに吹っ飛ばされた。そいつの手が俺の体に触れてもいないのにだ!
 その瞬間俺は確信した。これは人間じゃない!以前に美紅が学校の不良どもを手も触れずに吹っ飛ばしたのと同じだ。こいつ本当に幽霊なのか?
「ジャマスルキナラ……オマエモ……」
 のたうち回る悟を背にして、その人影が俺に向かって歩み寄る。その時……
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