妹神(をなりがみ)
 昼食を取り終えた一時間ほど経った頃、あの小夜子ちゃんが美紅と俺を誘いにやって来た。俺に島を案内してくれるという。母ちゃんが行って来いと言うし、どうもあのお婆ちゃんのそばにいるのも気まずいので、三人で出かける事になった。
 まずさっき来た道を逆もどりして港の近くへ行きそれから島の反対側の海岸へ出る。港の近くには人家がまとまった街と言っていい地帯があったが、そこから十五分も歩くと見事に何もない島だ。人とすれ違う事も滅多になくなった。
 ただ、海と海岸と島の中央部に森があるだけ。でも俺はちょっと感動していた。「青い海」って言葉、初めてその意味が分かったような気がした。東京だって海に面しているが俺は生まれてこの方、海が本当に青い色をしているなんて感じた事はなかった。でも沖縄の海はマジで青い。同じ海水浴でもこんな海で泳いだらさぞ気持ちがいいだろうな。
 俺の前を美紅と並んで歩いている小夜子ちゃんが振り返っていたずらっぽい笑いを顔に浮かべて俺に言った。
「美紅のお兄さん、何にもない田舎だと思ってるでしょ」
 一応「そんな事はない」と否定してみたが、小夜子ちゃんはキャハハと笑ってこう続けた。
「気遣わなくていいって。ほんと見事に何もないド田舎だもんね、この島。いいなあ、美紅ちゃんは。ねえ東京ってやっぱりすごい?」
 美紅は遠慮も気遣いもへったくれもない返事をした。
「うん、東京って何でもあるし。夜中でもお店はたくさん開いてるし。台風が来ても停電しないし。ええと、それから……」
「あたしも絶対そのうちこんなド田舎の離れ小島出て行ってやる!絶対都会に行くぞ!」
 ま、まあ、こんな綺麗な海のある土地でもそこで毎日生活するとなりゃ、それなりに苦労はあるんだろうな。それにしても美紅!もうちっとましな言い方があるだろうが!この天然ボケめ。
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