俺の彼女はインベーダー
 運よく壁に仲良くぶつかっただけで済んだ。あわてて起き上がりながら二尉が誰に言うともなくつぶやいた。
「これは!まさかテレキネシス?」
 その隙にその人影はラミエルをひょいと肩に担いで、飛び去るように部屋から出て行った。俺と二尉、それに麻耶があわてて部屋から飛び出す。しかし、ほんの数秒後だったはずなのに、そこにはもう人っ子一人影も形もなかった。廊下ではあの見張りの自衛隊員がものも見事にのされて気絶していた。
 桂木二尉がポケットから携帯電話を取り出し、大急ぎでどこかにかけた。繋がるやいなや大声でまくし立てる。
「ちょっと!ここの警備はどうなってるの?仮にも日本の防衛の中枢なのよ!それで侵入者は……はあ?真昼間から夢でも見てんの?とにかく私の車を玄関に。10秒で!」
 それから二尉は携帯を一回切って、指でディスプレイ画面をちょいちょいとなぞり始めた。スマートフォーンだった。でも、それにしても見た事のない型だ。ひょっとして自衛隊用の特注品か?二尉は足早に階段に向かいながら俺と麻耶を手招きした。驚きが抜けていない俺たちは反射的に後を追って走る。
 階段を駆け下りながら二尉は俺たちに言った。
「ラミエルさんを追うわよ。一緒に来なさい」
「お、追うって……ど、どうやって……はあ、はあ」
 いや階段を全速力で駆け降りながらしゃべるのがこうも難しいとは思わなかった。息が続かないし、しゃべりながらだと足がもつれそうになる。だが、桂木二尉は息一つ乱すことなく平然とした口調で話し続けた。
「さっきラミエルさんの服にGPS発信機を取り付けたわ。私のこのスマホに現在位置が表示されるのよ。ここの電波塔見なかった?あれは飾りじゃないのよ、アッハ~」
 取り付けたって、あの一瞬に?この人けっこうすごい人かもな。けど、ギャグのセンスは古いぞ。それは俺の親の世代のポップスの歌詞じゃないか?
 ビルの玄関には青いスポーツカーが停まっていた。これが二尉の車らしい。二尉が運転席に、俺と麻耶が後部座席に乗り込み、二尉は「シートベルトしっかり締めときなさい。飛ばすわよ」と妙にいきいきした声で叫んで、急発進させた。そして片手でスマホの画面を見ながらいぶかしそうにつぶやいた。
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