俺の彼女はインベーダー
 麻耶の悲鳴がイヤホンから聞こえた。女の子たちは2号機のボディーの装甲板をメリメリと少しずつはぎ取り始めていたのだ。
「腐海とは、腐女子の海……そういう事だったのか!」
 桂木二尉も茫然とした表情でつぶやいた。
「なるほど、サンシャイン60前の大通りは女性オタク向けの店が集まっている、通称『乙女ロード』……だからこの場所だったわけね」
「キャーーーー!」
 麻耶の悲鳴が俺と二尉にイヤホンに響いた。もう2号機の機体は胸のあたりまでよじ登った女の子たちで覆い尽くされ、装甲板はもちろん内部の部品まで少しずつはぎ取られていた。
「こ、この!」
 麻耶が操る2号機は左腕をぎりぎりまで伸ばしてマクスウェルの魔女たちが乗っているビルの出っ張りに一撃を加えた。しかし彼女たちは余裕でひらりと身をかわし、近くの地面に降り立った。1号サチエルが高笑いしながら叫ぶ。
「さあ、原始人たち。やっておしまいなさい!」
 だが次の瞬間、サチエルの体はどっとなだれ込んできた女の子たちの一団に飲み込まれた。ユミエルが手を伸ばしたが、なす術もなく彼女も群がる何十本もの腕に体をつかまれた。
「ウ、ウォーーーーーーーーーー」
 それまで無言に近かった女の子たちが獣のような咆哮をあげ始めた。いかん、ユミエルのテレパシーのコントロールから逸脱し始めているんじゃないか?
 俺は桂木二尉の顔を見た。二尉は無言でこくりとうなずく。俺と二尉はトイレの屋根から飛び降り、狂ったように2号機めがけて殺到する女の子たちをかき分けながら、ユミエルの元に走り寄った。道路の隅の空いた隙間に二人がかりでかろうじてユミエルを引きずり出す。彼女のセーラー服の上着はぼろぼろに引きちぎられていた。上半身はほとんどブラジャーだけの格好だ。
 俺はあわてて横を向き、そこに露天商のワゴンがある事に気付いた。Tシャツとかの露天だったらしい。そこに日本サッカー代表の青いユニフォームの上着があったので、五百円玉をワゴンに放り込んで一枚シャツを取り、それをユミエルに押しつけた。
「と、とにかくこれを着てくれ。目のやり場に困る!」
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