俺の彼女はインベーダー
 サイズが大きすぎてユミエルにはまるでガウンのようになってしまったが、あの格好よりはましだ。俺と二尉はユミエルを引っ張ってラミエルが待っているトイレの建物の屋根に戻った。そこからユミエルは半べその表情で「おねえさま、どこですか?」と叫んだが返事はない。
 俺は自分のトラウマになっている、子供の頃の出来事を思い出した。あれはデパートのバーゲンセールの日、母親に連れられてバーゲン会場に行ったのだが、値引き品に殺到するおばさんたちのあまりの迫力に怯えて逃げ出した。今の眼前の光景はその時の恐怖を俺に思い出させていた。その事を話すと桂木二尉は深刻そうな表情で深くうなずきながら言った。
「そうね。今はギャルでも、この子たちも数十年後にはバーゲンハンターのおばさんになる。その潜在意識に火をつけてしまったのだとしたら……」
 二尉はユミエルに視線を向けながら続けた。
「これはもう、誰にも止められない」
「わ、わたしは何て事を……」
 ユミエルは両手で顔を覆って泣き崩れた。しかし次の瞬間、決死の覚悟を決めたような顔つきになり、両腕をいっぱいに広げて目を閉じた。
「やめなさい!ユミエル!」
 俺たちの足元にうごめく少女たちの群れのどこかからサチエルの声がした。
「それはあなたの能力の……キャア……限界を……イヤア!」
 その声にかまわず、ユミエルは両手を広げたまま眼下の女の子たちの群れに上に身を投げた。俺たちが止めるひまもなかった。次の瞬間、そういう趣味はないのでユミエルの脳波転送には反応しなかった俺たちにもはっきり分かるほどのすさまじいテレパシーの奔流が辺り一帯を包んだ。
 獣のような雄たけび、いやこの場合は雌たけびと言うべきなんだろうか、をあげていた女の子たちが全員、魂を抜かれたように気を失い、その場にうずくまった。「ユミエル!」という叫び声をともに1号サチエルが少女たちの体の海から宙に飛びだし、ユミエルの体を抱いて近くにある石碑の上にふわっと降り立った。その石碑の表面には「永久平和を願って」という文字が彫られている。
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