俺の彼女はインベーダー
 麻耶の真後ろから追いかける格好になったため、サチエルの顔が正面に見えていた。彼女は例によって右手を俺たちの方に突き出していたが、その手は小刻みに震えている。そして、さっきまでの冷笑的な笑みは消え、いや、むしろ何かに怯えているような、ひきつった表情を浮かべていた。
 俺の体に、前進を押しとどめようとする力が加わるのを感じた。だが、それはさっきまでのそれとは比較にならない弱い物だった。ちょっと力を入れると易々と、その目に見えない壁を突破出来た。それは麻耶も同じだった。
 麻耶は怒り狂った形相で、一気にサチエルの目の前まで到達し、固く握りしめた拳をサチエルの顔面に叩きつけた。横から止めに入ろうとするユミエルに、俺は体当たりした。宇宙人で超能力者とは言え、その体の感触は地球人と何も変わらない。小柄なユミエルの柔らかい体はそのまま吹っ飛ばされる。
 麻耶は次々とパンチを繰り出し、しかしサチエルは反撃どころか防御する事もなく、麻耶に一方的に叩きのめされていた。そして振り上げた麻耶の腕を後ろから別の手がつかんだ。桂木二尉だった。麻耶を横に放り投げるようにしてどかせ、二尉は手にした拳銃をサチエルの胸に当て引き金を引いた。プシュッという音がした。二尉はすぐに猛然とユミエルに駆け寄り、その首筋に拳銃をあて、引き金を引き、またプシュッという音がして。
 変だな。拳銃を発射したのに、小さな空気が抜けたような音しかしない。俺はまだ事態の重大さに頭がついていけないでいるんだろうか?だが、そうではなかった。
「殺したの?」
 と訊く麻耶に桂木二尉は手の中の銃を見せながら答える。それはさっきまで持っていたごつい自動拳銃ではなく、白っぽいプラスチック製のオモチャの拳銃のような形をしていた。
「いいえ、これは麻酔弾よ。いくら宇宙人でも半日は目を覚まさないでしょうね」
「だったら、あたしが!この手で!」
 そう叫んでなおも倒れたサチエルに飛びかかろうとする麻耶。二尉が「捕虜にするのよ」と言いながら麻耶を止める。麻耶の両手は真っ赤に染まっていて……
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