俺の彼女はインベーダー
 今度はユミエルが俺たちの方に顔を向けて言った。
「その辺はおねえさまよりわたしの方が詳しいので。正確にはタイムトラベルではありません。パラレルワールド理論の応用なんです」
 そこからの説明は俺には信じられない話だった。まず地球の過去のある時点で、地球と全く同じ歴史を持った別な宇宙空間、いわゆるパラレルワールドを人工的に作り出す。そしてそのもう一つの地球にイケスカンダル人が大量に侵入し自分たちの物にする。だが、二つの地球がいつまでも同時には存在出来ないから、そのままだと人工的に作った幕末の時代の地球はいずれ消滅する。
 その前に、そのもう一つの地球の歴史上での存在を確定させてしまう。そういう操作がパラレルワールドの方の地球で進行中だと言うのだ。そして、その別な歴史を持つ地球の存在が確定されるとどうなるか?その答は予想していたとは言え、あまりにも衝撃的な物だった。ユミエルはじっと俺たちの顔を見まわし、静かにこう言った。
「こちら側の地球は消滅します。その幕末の頃までさかのぼった歴史ごと、この宇宙空間から跡形もなく消えてしまうのです」
 俺はもう頭の中が真っ白になって言葉が出なくなった。それは麻耶もラミエルも桂木二尉も同じだっただろう。そんな方法での地球侵略があったとは。それも異次元世界の過去の地球でやられたんじゃ俺たちには手の出しようがない。
 青ざめた顔色ではあったが、そこはさすがに自衛隊の士官にして特殊任務のリーダー。桂木二尉は気を取り直してサチエルとユミエルに訊いた。
「でも、それだとあなたたちも地球と一緒に消滅する危険があるわよね。そこはどうなっていたの?」
 サチエルが答える。
「実は、そのもう一つの地球へつながる緊急用の脱出通路がこの東京という都市にあるのです。そのバクマツとか言う時代が選ばれたのは、ちょうど時間軸の転換点がその時代に存在したから。そしてその転換点の中心となる時空の歪みが、この一帯に存在しています。わたくしたちが、この日本に送り込まれたのはそのためなのです」
 ユミエルが付け足す。
「そして、あちらでの作戦が完了する段階になったら、わたしたちはその時空のトンネルを通って向こう側の、新しい歴史の地球に脱出するという手筈でした」
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