俺の彼女はインベーダー
 俺たちの方に顔を向ける余裕もなくサチエルが苦しげに叫ぶ。俺は小夜ちゃんを、桂木二尉が気絶したユミエルを背負い、俺の後ろにラミエル、二尉の背中を麻耶が支えて、俺たちはその場から逃げだした。なんとか巨大生物の足元から距離を取れたところでサチエルが力尽きた。
 動きを押さえつけられていた巨大生物は再び全身を震わせて暴れ出し、こっちへ向かって来る。その前方をサチエルが必死の形相で俺たちに向けて全力疾走して来た。巨大生物の太い脚と尾が周りの木造家屋を紙細工のようにつぶし始めた。
 必死で逃げる俺たちの頭上から、イケスカンダル人が設置したらしい送電用の鉄塔が倒れて来た。なんとかよけたが、俺はラミエルの姿が見えなくなった事に気がついた。ラミエルは無事だったが、倒れた鉄塔の向こう側で転んで地面にへたり込んでいた。そこへ巨大生物がゆっくりと、だが確実に近づいて来る。
 俺は小夜ちゃんをそばにいたサチエルに託してラミエルに走り寄った。どうやらラミエルは腰を抜かしてしまったらしい。地面にぺたりと座りこんだまま、なす術もなく近づいてくる巨大生物を見上げている。俺はラミエルの体を抱き起こそうとした。その瞬間、巨大生物が今までにも増して凶暴な咆哮を上げた。
 まるで鼓膜が破れそうな程の恐ろしい叫びに俺もまたその場に腰を抜かしてへたり込んでしまった。もう巨大生物の脚が目の前まで迫っていた。こ、これまでか?半分観念して両手を握りあう俺とラミエル。
 が、その俺たちの脇を小さな人影がすり抜けて行った。小夜ちゃんだった。巨大生物は牙をむき出しにした頭を地面近くに下ろした。小夜ちゃんはかまわずやつに駆け寄って行く。や、やばい、小夜ちゃんが喰われる!
 小夜ちゃんは巨大生物の足元にひざまずき、両手を合わせて大声でやつに向けて訴えかけた。
「魔神様。もういいんです。もう終わったんです。どうかお怒りをお鎮め下さい。お山へお帰り下さい」
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