俺の彼女はインベーダー
 二尉は俺にその双眼鏡を手渡しながら、笑って言った。
「いえ、そうじゃないわよ。ものすごく綺麗な蛾が飛んでいるのを見つけてね。早太君も見てごらんなさいよ」
 言われるままに双眼鏡を目に当てると確かにおそろしく綺麗な色の羽の蛾が飛んでいた。赤、青、黄色、緑が入り混じった極彩色ってやつだな。それぞれの羽の真ん中には目玉のような大きな斑点がある。
「はあ、なるほど、これは綺麗ですね」
「見たところ熱帯の蛾かしらね。気流に乗って迷い込んで来たのね」
「ん?桂木さん、この下に見えている数字は何ですか?」
「ああ、それは見えている対象物までの距離よ。自動で視界にデジタル表示されるの」
「はあ、つまりこの2500Mって、約2.5キロの距離なわけですか?へえ、これは便利ですね」
「まあ、自衛隊も近代化しないとね」
 俺は双眼鏡を目から離し、ふとある事に気付いた。二尉に双眼鏡を返しながら念のために訊いてみた。
「あ、あの、桂木さん。あの蛾ってここから2.5キロ離れた所を飛んでるわけですよね?」
 二尉は再び双眼鏡を目に当てながら言う。
「ええ、そうだけど?」
「あ、あのう、その距離から肉眼で見てあの大きさに見えているって事は、あの蛾の大きさって、その、どうなるわけでしょう?」
「ええと、そうねえ。ざっと計算して羽の差し渡しが……さ……さ!」
 二尉は双眼鏡を覗きながら声が裏返ってきた。鈍いこの人もやっと気がついたか。二尉は双眼鏡をはずして俺の方に顔を向け、引きつった声で言った。
「少なくとも30メートルはある事になるわね、あの蛾」
 ほら見ろ、言わんこっちゃない。美少女で宇宙人で超能力者なんてコンビがあんな不思議な歌をデュエットなんかしたもんだから、また別なモン呼び寄せちまったじゃないか。俺も引きつった声で二尉に言った。
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