俺の彼女はインベーダー
「おまえたちは、あれ見て気にならなかったのかよ?」
「あ、そう言われたら」とラミエル。
「そうねえ」と麻耶。
 俺たちの向かい側に座っていた三人もきょとんとした表情で続けた。
「あまりにも自然でしたので」とサチエル。
「かえって……」とユミエル。
「ええ、気にならなかったわね」と桂木二尉。
 いや、気になれよ、そういう事は!まったくどういう神経してるんだ、この女どもは?一体なんて名前の店だ。ええと、メニューに、ワグナ……そこでさっとメニューが女どもに持って行かれてしまって最後まで読めなかった。ま、いいか。もう来る事もないだろうし。
 それからファミレスを出て二尉の運転する車で高速道路をひた走り、インターチェンジで一般道に降りると、ほんとにここが東京都の一部か?と思うほどにのどかな山村の風景が広がっていた。
 キャンプ場の駐車場に車を止め、割り当てられたスペースにテントを張り、それから近くの沢まで全員で水を汲みに行った。飲料用や料理に使うミネラルウォーターはでっかいタンクで運んで来ていたが、手を洗ったり雑用に使う水は別に必要だったからだ。全員でバケツを下げて沢に下る。その水も充分きれいそうだった。これなら沸かせば飲めるんじゃないか?
 俺が水を汲む役になり、靴を脱いで沢の水に足を入れバケツを水面に入れようとした時、俺の耳に信じられない者が聞こえて来た。
「兄貴、何やってんのよ。さっさと汲んでよ」
 そう文句を言いかけた麻耶に、俺は人差し指を唇にあてて「シッ」と制した。
「聞こえないか?あれ」
「え?」
「歌だよ。かすかにだけど、聞こえないか?」
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