俺の彼女はインベーダー
 そう言われて俺以外の全員も声をひそめて耳を澄ます。数秒後、桂木二尉がそっとつぶやいた。
「ええ、確かに聞こえるわ。小さな女の子の声みたいね」
 そしてラミエルが全身を小刻みに震わせながら小声で、しかし叫ぶような激しい口調で言った。
「それに、この歌は……早太さん、まさか?」
「この辺はすぐ近くに一般の人家もあるみたいね。あの崖の上の辺りから聞こえるわ。ちょっと行ってみましょう」
 バケツをとりあえずその場所に置いて、俺たちはすぐ傍の急な狭い坂の小道を登って行った。坂を登り切ると一軒の農家風の造りの大きな家があった。その広い庭で5、6歳ぐらいの女の子がその歌を口ずさんでいた。小夜ちゃんが歌っていた、あの魔神様に捧げる歌を。
 俺たちの視線に気づいた女の子は、おびえた様子で縁側の方へ駆けだした。縁側に一人の老婦人が姿を見せ、その女の子を抱き止める。その人は俺たちにやさしい視線を投げかけて問いかけた。
「おや、何かご用ですか?」
 俺が返事に詰まっていると桂木二尉がとっさに笑顔で答えた。
「これは失礼しました。以前聞いた事のある歌がこちらから聞こえてきましたものですから。今歌っていらしたのはお宅のお嬢さんですか?」
 その老婦人は一瞬目を丸くして、さらに愛想のいい表情になって言った。
「あら、これは珍しい事もあるもんで。謡い姫の歌をご存じですか?」
 ウタイヒメ……まさか!
「まあ、立ち話もなんですから、お上がりになりませんか?こんな田舎ですから、お客さんが来るのは久しぶりですので。さあ、どうぞ、どうぞ」
< 209 / 214 >

この作品をシェア

pagetop