俺の彼女はインベーダー
縁側から座敷に上がらせてもらうと古風な造りの日本家屋だった。多分元は農家だったのだろう。勧められたお茶をすすりながら二尉が話を続けた。その家の老婦人が尋ねる。
「下のキャンプ場へいらした方ですか?どこであの歌を?」
「いえ、はっきり思い出せないんですが、以前どこかで聞いて感動した事がありまして。もう一度聞けたらと思いながらあきらめていたんですが、さっき下の沢で思いがけず耳に入って来ましたので、つい来てしまったというわけで」
「ああ、そうでしたか。昔ひい婆様から教わった歌でしたが、他の土地にも伝わっていたんでしょうね」
「ひいお婆様とは、その子の?」
「いいえ、私の、この年寄りのひい婆様ですよ。生まれは江戸時代の人でして。ほれ、あそこの左から4番目の写真がそれです」
その人が指さした壁の鴨居の上には歴代のこの家の主人夫婦の写真が飾ってあった。その写真は白黒で古びてぼやけていて、そしてそこに映っているのはしわくちゃの老婆だ。だが、俺はその顔に確かにかすかな小夜ちゃんの面影を見た。
「ひい婆様は変わった人でしてね」
老婦人が言葉を続ける。
「事あるごとに、自分は21世紀になるまで生きるんだと言っておりました。さすがにそうはいきませんでしたが、なんと満で105歳まで長生きしましてねえ。はい、亡くなったのが東京オリンピックの年だったそうで、近所でも語り草になっておりました」
俺の頭の中に、小夜ちゃんの最後の言葉がまざまざと蘇って来た。
……小夜、いつかきっと兄様に会いに行く。ニジュウイッセイキという国に会いに行くからね……
「あのう、もしよろしければ……」
桂木二尉がこの人には珍しく遠慮がちな口調で老婦人に頼む。
「お孫さんに、さっきの歌をもう一度歌ってはいただけませんか?」
「ほれ、マヨ。こっちへおいで」
「下のキャンプ場へいらした方ですか?どこであの歌を?」
「いえ、はっきり思い出せないんですが、以前どこかで聞いて感動した事がありまして。もう一度聞けたらと思いながらあきらめていたんですが、さっき下の沢で思いがけず耳に入って来ましたので、つい来てしまったというわけで」
「ああ、そうでしたか。昔ひい婆様から教わった歌でしたが、他の土地にも伝わっていたんでしょうね」
「ひいお婆様とは、その子の?」
「いいえ、私の、この年寄りのひい婆様ですよ。生まれは江戸時代の人でして。ほれ、あそこの左から4番目の写真がそれです」
その人が指さした壁の鴨居の上には歴代のこの家の主人夫婦の写真が飾ってあった。その写真は白黒で古びてぼやけていて、そしてそこに映っているのはしわくちゃの老婆だ。だが、俺はその顔に確かにかすかな小夜ちゃんの面影を見た。
「ひい婆様は変わった人でしてね」
老婦人が言葉を続ける。
「事あるごとに、自分は21世紀になるまで生きるんだと言っておりました。さすがにそうはいきませんでしたが、なんと満で105歳まで長生きしましてねえ。はい、亡くなったのが東京オリンピックの年だったそうで、近所でも語り草になっておりました」
俺の頭の中に、小夜ちゃんの最後の言葉がまざまざと蘇って来た。
……小夜、いつかきっと兄様に会いに行く。ニジュウイッセイキという国に会いに行くからね……
「あのう、もしよろしければ……」
桂木二尉がこの人には珍しく遠慮がちな口調で老婦人に頼む。
「お孫さんに、さっきの歌をもう一度歌ってはいただけませんか?」
「ほれ、マヨ。こっちへおいで」