俺の彼女はインベーダー
 老婦人は柱の陰に半分体を隠してこっちをのぞき見しているさっきの女の子を手招きした。マヨちゃんは恥ずかしがってなかなか出てこなかったが、やっと素早く老婦人の膝の上に飛び込んだ。
「マヨ。このおねえさんたちがお歌を聞きたいんだそうだよ。歌ってあげて、ね?」
 彼女はお婆さんの膝に座ったまま、ためらいがちに歌を口ずさみ始めた。その歌は150年もの時を経て、歌詞もメロディも微妙に違っていた。だが、俺にはそれが小夜ちゃんの歌っていた、あの歌である事が分かった。俺はそのマヨちゃんという少女の中に、確かにあの小夜ちゃんの面影を見ていた。
 歌が終わった時、俺の両目からはボロボロと涙がこぼれ落ちていた。俺ほどではないが、桂木二尉以外の他のみんなもうっすら涙ぐんでいた。それを見たマヨちゃんのお婆さんが驚いて訊いた。
「あ、あの、どうかなさいましたか?」
 俺は掌でゴシゴシと目をこすり無理やり笑顔を作って答えた。
「あ、いえ。なつかしい歌を久しぶりに聞いたもんで、感動しちゃって」
「あれまあ、こんな田舎の古めかしい歌が、都会のお若い方にそんなに?」
 桂木二尉が話を引き取った。
「現代っ子にはかえってそんなものですよ。あら、これは長々とお邪魔してしまって。私たち沢に水を汲みに来た途中でした。さ、みんな、そろそろ失礼しましょう」
 マヨちゃんと彼女のお婆さんに手厚く礼を言い、俺たちは沢に下りる道を下った。ユミエルが指先でそっと目頭をぬぐいながらサチエルに言う。
「なんだか、感激してしまいました。こんな偶然って本当にあるんですね、おねえさま」
 サチエルも潤んだ目で答える。
「わたくしもですわ。この惑星でなら、さしずめマリア様のお導きとでも言うのでしょうか」
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