俺の彼女はインベーダー
 坂道を下り切ったところで、突然麻耶が桂木二尉の前に回り込み、少し上半身を傾けて下から二尉に顔をのぞき込みながら、いたずらっぽい笑いを浮かべて小声で言った。
「こんな都合のいい偶然があるはずないですよねえ、桂木さん」
「え?あ、あら、何の事かしら?」
 桂木二尉は平静を装っていたが、目が泳いでいた。
「日本で近代的な戸籍制度が始まったのが明治5年、西暦で1872年。1864年に6歳ぐらいだったのなら、その時戸籍に載せられたはずですよねえ。自衛隊って国家権力の一部ですもんねえ。明治にまでさかのぼって戸籍の記録を調べるぐらいわけないですよねえ」
「あ、あはは、もう何言ってるのよ、麻耶ちゃん」
「でもって、特定の人物がその後どこへ行ってどこで死亡したか、その子孫が今どこにいるか、そんな事ぐらい調べようと思えば簡単ですよねえ?」
「もう、やあね。何の話よ」
 そうか。そういう事だったのか。俺は桂木二尉の前に立ち、直立不動の姿勢を取り、腰を90度曲げて深く頭を下げた。二尉はそれに取り合わず、俺の肩をポンと叩いて、相変わらず笑いながら俺たちの横を通り過ぎて行った。
「もう、やだ、早太君まで。おねえさん、何の事だか本当にわかんな~い!」
 全くもう、とぼけるのが下手なんだから、この人は。
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