俺の彼女はインベーダー
 そして俺達は波穏やかな海面に向けて降下し、そのまま水中に降りていった。透明になった球体の床の向こうを小魚の群れや時折でかい鮫が泳いで横切っていく。
 魚の姿すらまばらになった海底近くでラミエルが球体の発光作用を作動させて、俺達は昼間のように明るく照らされた海底を肉眼で見ることが出来た。
「あれだわ……」
 麻耶が冷たいといっていいほど落ち着いた声でつぶやいた。俺も妹の視線の先を目で追った。そして見た……それを……
 それは確かに巨大な鉄の塊と言えた。先端から三分の一ぐらいの辺りで真っ二つに折れていた。海底に横たわる全長二百三十六メートル、最大幅が三十八・九メートルの巨大な船。そう、第二次世界大戦末期に撃沈された戦前の日本海軍の戦艦大和だ。
「あれを再生して改造して、新しい兵器にする……出来る?」
 麻耶がラミエルに念を押す。ラミエルはこっくりとうなずきながら答える。
「可能です。ただ少し時間がかかりますね。五十時間ほど・・・必要です。でも、改造の指令は私の携帯コンピューターから発信出来ますから、その作業は早太さんの部屋にいるままでも行えます」
「いいわ、やって」
 麻耶がそう言うとラミエルは例の黒い箱を球体の床に置く。すると床のその部分だけがほのかな赤い光を発し、すうっと箱を吸い込んだ。
 数秒後、俺達が透明になった床から見ている海中を、あの箱が飛ぶように横切って行くのが見えた。箱はそのまま戦艦大和の残骸の方へ向かい、そこへ吸い込まれるように見えなくなった。
 一見何の変化も起こっていないように見えるが、ラミエルが言うには箱を構成している素粒子が大和の艦体に入り込んで同化しているのだという。
「よし、じゃあ基地へ帰還!後は任せたわよ、兄さん」
 司令官気取りの我が妹殿のご命令だ。いや、ま、確かに今のこいつは地球征服作戦の司令官みたいなもんなんだが。
< 32 / 214 >

この作品をシェア

pagetop