俺の彼女はインベーダー
 幸いもう一時近くでお客も少なく空いていたので、配膳カウンターの向こうのおばさんに訊いてみた。
「ああ、あれかい。まあ、今週だけのスペシャルメニューで、一種の社会貢献てとこだね。」
「社会貢献……ですか?」とこれは俺。
「あたしもよくは分からないんだけどさ、S定食ってのはカロリー控えめの健康メニューなのよ。うちの職員さん達もメタボ気味の人多いからね。で、そのメタボ気味の人たちが健康とダイエットのためにS定食頼んでくれると、節約した材料費の二十円がどっかの社会奉仕団体に寄付されて、貧乏な外国の子供の学校給食一回分になるんだってさ」
 俺はサンプルの棚のS定食に目をやった。野菜の煮物、冷や奴、海藻サラダがおかずの、確かにダイエットには良さそうなメニューだ。
「あの……二十円で子供の一食分なんですか?」
 ラミエルが心底驚いた様子で、カウンターから身を乗り出さんばかりにおばさんに顔を近づけて訊いていた。
「ああ、そうだよ。二十円もありゃ子供がおなかいっぱい食べられて、でもたったそれっぽっちのお金が無くて食べられない……そんな国が世界にはたくさんあるんだとさ。そういう所に寄付するお金を集めるために、こういう特別メニューを今週だけ出す事になったわけよ。ま、うちの区長もたまにはいい事するよ」
 おばさんはここまで言ってガハハと笑いながらラミエルの背中をバシッと叩いて言葉を続けた。
「どうだい、お嬢さん。あんたにゃダイエットは必要なさそうだけど、かわいそうな外国の子供のために食べてみないかい?」
 ラミエルは一も二もなく賛同し、そのS定食を頼んだ。俺は何となく罪悪感を覚えながら、テーブルで向かい合ってチキンカツを頬張った。
「地球にはまだそんな場所が残っているんですね……そしてそれを救おうとがんばっている人たちがいる……なんだかジンとしちゃいます」
 食べながらラミエルはつぶやくようにそう言った。彼女の言葉から察すると、ラミエルの星では飢餓だの食糧不足だのが起きる国はもう無いのだろう。あれだけの科学技術があれば、飢えで死ぬ人間などいない世界であっても不思議はない。
< 62 / 214 >

この作品をシェア

pagetop