俺の彼女はインベーダー
 俺は麻耶の演説に度肝を抜かれた。昔から口の立つ奴だとは知っていたが、まさかこれほどとは……それに身勝手ながらも筋は通った話だ。確かに地球人類てやつは未だに戦争を繰り返し、悲惨な飢餓を解決する事も出来ていない。それは真実だ。
 と、突然俺たちの横の方からパチパチと拍手が聞こえてきた。演説に夢中で気付かないうちに、アフリカのどこかの国の代表らしき年配の黒人の女性が、いつの間にか屋根に上ってきていたのだ。ラミエルが手元のスパコンをちょいといじって俺と麻耶に言った。
「バリアを強化しました。あの女性はわたしたちには手を触れる事も出来ません」
 その黒人女性は麻耶に抱きつこうとするような動きを見せたが、その直前で見えない透明な壁に突き当たったかのように、それ以上進めなくなってしまった。ラミエルの言ったバリアが効いているようだ。
 が、その女性がひっきりなしに俺たちにかけてくる言葉にラミエルが反応した。どうやらこの黒人女性、俺たちに何かを伝えたいらしい。ラミエルが意を決したように言った。
「麻耶ちゃんと早太さんはそこから動かないで下さい。わたしがバリアの外へ出て話を聞いてみます」
 俺は止めようとした。
「おい、大丈夫なのか?そんな事……」
「この宇宙服着ている時は大丈夫です。たとえ至近距離から銃で撃たれても傷一つつきませんから」
 そう言ってにっこり笑うとラミエルはバリアの外へ出て、その黒人女性に近づいて行った。彼女はラミエルの両手を握りしめ、何かを必死に訴えている感じだ。何語なのかよく分からないが、ラミエルなら何語でも相手と話が出来る。
 ほんの二、三分の間だったが、その黒人女性とラミエルは話し続け、最後に黒人女性がラミエルの手の平に何か小さな物を握らせた。戻ってきたラミエルと一緒に急いで球体の中に戻る。そろそろ上空を軍のヘリコプターや戦闘機が飛び交い始めていたからだ。
 帰る方向を悟られないように、俺たちは球体をまっすぐ上空に飛ばした。もちろんジェット戦闘機でも到底追いつけない超高速で、だ。そして帰りは海中に潜り、見つからないようそのまま水中を進んで日本に、俺のアパートへ戻った。
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