俺の彼女はインベーダー
 俺たちの思惑は当たった。それから数時間後、国連事務総長が世界中のマスコミ相手に緊急記者会見を開き、俺たちが書いたシナリオ通りの発表を行った。それは全世界の新聞、ラジオ、テレビ、インターネットニュース、その他あらゆる形で世界中を駆け巡った。
 俺たちは海中深く潜行しながら日本へ戻るラミエルの球体の中で、彼女のコンパクト型スパコンの画面でそれを見ていた。しかし、本当に国連が全人類を代表して降伏なんかするだろうか?
「しないと思うわ」
 麻耶はあまりにもあっさり言った。俺はちょっと拍子抜けした。
「それでいいのか?」
「そしたらあの円盤をまた飛ばすのよ。それこそ世界中に出現させてね。もちろん中性子は降らせないけど、いつ殺人光線が空から降って来るか分からない、という状況に人間はそう長く耐えられるものじゃないでしょ?全面降伏させるのは無理でも交渉の糸口ぐらいにはなるかな、ってね」
 俺はもう一つ気なる事があったので、今度はラミエルに向かって訊いた。
「なあ、あの屋根の上で、あの黒人のおばさんと何を話していたんだ?」
「あのご婦人はアフリカの貧しい国から国連に派遣されていて……わたしたちにお礼を言いたかったんだそうです」
「お礼?」
 俺はあっけに取られて言った。地球を征服しに来たと演説している宇宙人にか?
「あの方の国は食糧不足が深刻で、他の国から毎年援助を受けていて、それでも毎年大勢の子どもが栄養不足で死んでいくのだそうです。麻耶ちゃんの演説を聞いて、よくぞ言ってくれた、とそう思ったそうです」
「そういや、あの時何か君に渡してなかったか?」
「はい、これです」
 ラミエルはそう言って、愛おしそうに手の中に握りしめていた物を俺たちに見せた。色が付けてあるとはいえ、なんとも安っぽい金属のブローチだ。安全ピンで服に留めるやつ。
 よく見ると表面に英語の単語が浮き彫りにしてある。上下に三つ並んだその模様はこう読めた。
Table for two
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