俺の彼女はインベーダー
 翌日、麻耶が切った降伏の期限まであと二十四時間となり、俺たちはとりあえず暇を持て余していた。日曜日なので麻耶も朝から俺のアパートに入り浸っているが、仮に降伏宣言が出るとしても丸一日ある。
 ふとラミエルが思い出して言う。
「あ、いけない。あの円盤の設定をもう一度しておかなくちゃ」
 麻耶が怪訝そうに尋ねる。
「え。一回放射するとやり直しなの?」
「はい。放射する素粒子の種類からもう一度最初から設定しないと。次も高速中性子線でいいんですよね?」
 既に秋の入り口とはいえ、俺のボロアパートに籠っているとまだ蒸し暑く感じる。
「そんなの兄さんにやらせなさいよ。あたし達はちょっと飲み物でも買いに行こう。喉が渇いてきちゃった」
「ええ、では早太さん。これをお願いしますね。日本語で入力出来るようしてありますから」
 そう言ってラミエルは俺に例のコンパクト型スパコンを渡す。受け取って画面を見ると確かに素粒子の種類を打ち込めばいいようになっている。指先でキーボードをちょいちょいと押せば済む。
「ああ分かった。やっとくよ」
 そして二人が部屋から出た後、俺のパソコンのキーボードそっくりに並んでいるパネルを押してみる。
 と……ありゃ?……わあ、しまった!英語入力画面になっちまった!ラミエルが帰って来てから訊いてやり直すか?いやいや、そんな事をしたら……麻耶のこれでもかってぐらい人を小馬鹿にした目つきがありありと思い浮かんできた。
 なあに俺だって浪人生とはいえ、理系志望の学生だ。この程度の英語出来なくてどうする!俺は英語の辞書を膝の上に置いて「中性子」を引き、そのページとコンパクト型スパコンの小さな画面を交互に見比べながら、なんとか入力を終えた。
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