俺の彼女はインベーダー
 麻耶は顔色ひとつ変えずに平然と一番下にある四角いボタンを叩くように押した。げっ!何だ、その「地下特別ルーム、二時間五万円」てのは!
「さ、早く入るわよ」
 せかす麻耶に俺はやっと理性を取り戻した。俺は両手を麻耶のそれぞれの肩の上に置き、妹の目をまっすぐに見つめながら、兄としての精いっぱいの威厳を込めながら、ゆっくりとこう言った。
「いや、待て。ラミエルはいいとして、俺とおまえは血のつながった兄妹だ」
 言い終わらないうちに麻耶のポーチが俺の脳天を直撃した。
「何考えてんのよ!追っ手から隠れるだけじゃない。まさか六本木のど真ん中にこんな変わったラブホがあるとは気付かないでしょ!」
 あ、そうか!さすが麻耶。確かにこんな所にこんな物があるなんて普通は……と安心しかけたところで、ある疑問が噴出してしまった。
「女子高生のお前がなぜこんな場所を知っている?それもそんなに詳しく!」
「いいから入るの!ほら、料金はあそこで前払いして」
 うわ!当たり前だがカウンターに人がいる。白髪のおばさんだが、これはいくらなんでもまずくないか?真っ昼間に男一人女二人の組み合わせで……しかも今日の麻耶の格好では誰がどこからどう見ても未成年者にしか見えん。
 俺は今にも心臓が止まるんじゃないかと感じながら、おっかなびっくりで金を差し出した。おばさんは眉ひとつ動かさずキーを差し出して……
「どうぞ、ごゆっくり」
 って、何のツッコミも無しかよ!乱れとるぞ、東京の風紀は!この国の未来は大丈夫なのかあ?
 麻耶は慣れた様子でエレベーター脇の階段を下りて地下階へ行く。しょうがないんでついていく。どうやらラミエルは未だにここがどういう場所なのか理解出来ていないようだが、ここは下手に教えない方がいいだろうな。
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