俺の彼女はインベーダー
 さて本当に大変だったのはそれからだった。麻耶によれば最近の電波発信機というのは、本体は指の先に乗るほどの小さな物らしい。で、三人とも服を全て脱いでポケットの中はもちろん、襟の裏、縫い目の中に至るまで変な物が無いか探す事になった。
 さっそく俺がジャンパーを脱ぎ、ジーンズのベルトに手をかけたところで、麻耶のポーチが俺の脳天を一閃した。そのまま麻耶に耳を掴まれてバスルームへ引っ張っていかれた。
「兄さんはその中で!」
 仕方なく狭いバスルームの中でパンツの裏までひっくり返して調べてみたがそれらしき物は何も見つからない。どうやら、電波発信機を仕掛けられたのは俺じゃないようだ。
 俺が下半身の服を着終えた時、バスルームのドアの向こうから麻耶の叫び声がした。
「ラミちゃん!それよ!」
 俺はバスルームのドアを蹴破らんばかりに飛び出し、二人の元へ急いだ。そして次の瞬間ラミエルの悲鳴と麻耶のポーチが俺の顔面めがけて飛んで来た。あ、悪い、そっちはまだ服着てなかったのね……
 数分後やっとお許しが出たので二人に傍へ行くと、麻耶が手の中に何か持ってそれを見つめている。それはラミエルが国連ビルの屋根の上でアフリカのおばさんからもらったブローチだった。
 よっぽどそれをもらった事がうれしかったのか、今日もわざわざ胸に着けていたのだ。麻耶が指に力を込めてブローチを左右に折る。その下にはいかにも不似合いな精巧な、一センチ角程度の大きさの電子回路があった。
「あの黒人のおばさん、どうやらこれが目的で君に近づいたんだな」
 俺はラミエルにそう言った。可哀そうだが事実は事実だ。途端にラミエルが床に座り込んで顔を手で覆った。クッ、クッという声が漏れている。
「すみません……すみません……わたしがお二人まで危険な目に……」
 今回ばかりは麻耶もやさしくなぐさめた。
「いいのよ。気がつかなかったのはあたしのミスよ。国連とはいえ、外交の世界は権謀術策の世界なんだから、あたしがもっと注意するべきだった……」
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