俺の彼女はインベーダー
「ラミエル、止めろ!」
 俺はラミエルに叫んだ。とっくにコンパクト型スパコンを操作していた彼女は、突然だらんと両腕を脇に垂らして力なくこう答えた。
「ダメです……緊急放射体制に入っていて……止められません……」
 すぐに円盤からキーーーンというガラスを引っ掻くような音がしてきた。まずい、ここにいたら俺たちまで高速中性子のシャワーを浴びてしまう。いや、俺たちだけじゃない。六本木の、いや下手をすると東京中の生物が全て・・・
 公園の隅では幼稚園児ぐらいの小さな子供たちが四人、何も知らずに無邪気に遊んでいる。そして上空の円盤が一瞬カッと強く光った。
 何故そんな事をしたのかは自分でも分からない。俺は麻耶とラミエルを地面に押し倒し、二人に上に自分の体を覆いかぶせるようにして、地面に伏せた。
 そんな行動が無意味だという事は百も承知だった。高速中性子線は人間一人の体なんか簡単に突き抜ける。俺の体を盾にしたぐらいで麻耶もラミエルも助けられるはずはない。飛んでくる銃弾の前にボール紙を突き出したようなものだ。防げるはずがない。
 ふと気がつくと仰向けにひっくり返ったラミエルの両手が俺の頬を下から挟んでいた。宇宙人でも女の子の手の平ってこんなに柔らかくて温かいんだな。死ぬ前にそれだけでも知って、それはそれでいいか。
 そのまま何秒あるいは何分経ったのだろうか?周りで同じように地面に伏せていた人たちが先に騒ぎ始めた。
「おい、何か起きたのか?」
「俺はなんともねえぞ、体……」
「あたしも……」
「あ、UFOが……」
 あの円盤は二回目の放射を終えて使命が終わったからなのか、ふらふらとした動きで上空をさまよい海の方角へ風に流されるように飛んで行った。すぐに自衛隊の戦闘機の物らしい爆音が近くに聞こえ、小さな爆発音がした。きっとあの円盤は戦闘機のバルカン砲かミサイルで東京湾に叩き落とされたのだろう。
 俺は何が何だか分からないまま、ふらふらと立ち上がり麻耶とラミエルの手を握って立たせた。そしてとりあえず俺のアパートへ向かうべく一番近い地下鉄の駅めざして三人でまた走った。
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