俺の彼女はインベーダー
 まずは十六年前の地球、日本へ。俺と麻耶が生まれたのは東京郊外の街の市民病院で、夜は看護婦さんが数十分おきに見回りに来るぐらいで見張りは手薄だ。まだこんな普通の病院の中にまで監視カメラが取り付けられているような時代じゃないから、忍び込むのは簡単だった。
 新生児室のベッドにいた赤ん坊の麻耶をラミエルがそっと抱きあげて宇宙服でくるむ。すごい防音効果で赤ん坊の息をする音さえ聞こえなくなった。それから急いでラミエルの球体に乗り込み、今度は十七年前の彼女の星へ宇宙を飛んだ。
 その宇宙旅行の間、ラミエルは操縦で手がふさがっていたので、俺が赤ん坊の麻耶をあやしていた。その時俺はこんな事を考えていた。
 これまでのあいつの破天荒な行動を間近に見てきて、俺はこう思うようになった。麻耶はある種の天才なのだ、と。もし戦国時代や未来の時代に生まれていたら、軍事の天才として歴史に名を残したかもしれない。
 だが、平和ボケ日本の平凡なサラリーマン家庭に生まれた麻耶はその才能を発揮できる場所も機会もない。あいつの日頃からの非常識な言動は、ひょっとしたらそのフラストレーションの表れだったのかもしれない。
 たとえばベートーベンやモーツァルトの様な天才音楽家だって、楽器もろくにない原始時代に生まれていたりしたら、その才能を花開かせる事もなく一生を終えていただろう。それと同じ事だ。
 だが、もし麻耶がラミエルの星で生まれていたら?現代地球では想像もつかない高度な科学力を持ち、その気になれば他の星を侵略、征服する事も出来る、そんな環境で育ったらどうなる?
 麻耶にとってはその方が人生幸せなんじゃないか?それが悩み続けた末の俺の結論だった。そう、麻耶はもっと知識、科学の発達した高度な文明社会で軍人にでもなるべき才能の持ち主だ。
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