俺の彼女はインベーダー
 一方ラミエルは、もう自分の星へ帰りたくない、このまま地球で一生を送りたいと言い出した。もともと征服作戦以前に軍人に向いていない女の子だし、彼女の星から見れば遅れた野蛮な文明段階の地球が好きになってしまったらしい。彼女はこう言っていた。
「わたしは地球でいろんな人に会いました。確かに野蛮で非効率な文明ですが、それでも遠い外国の子供を助けようとして必死に知恵を絞って頑張っている人たちがいたり……大切な売り物を困っていそうな若者にこっそり分けてくれる心優しい人たちが、街のあちこちに大勢いたり……わたしはこう思うようになったんです。わたしの星もよその惑星を征服して問題を解決しようとする前に、まず自分たちで解決のための努力をするべきなんじゃないかって。自分たちの力で自分たちの星を救う、まずそれをやってみるべきなんじゃないかって……」
 そして俺たちは十七年前のラミエルの星にたどり着いた。そこは俺が想像していた通りの超ハイテク都市だった。海や山はあるが、確かに緑は乏しく空気全体がよどんでいるような感じがした。
 高さ千メートルを超える巨大な円筒形のビルが見渡す限り連なっている。その一角に俺とラミエルは、拍子抜けするほどあっさりと忍び込む事が出来た。警備や見張りは全てロボットがやっているから、ラミエルが手にしたコンパクト型スパコンでちょこちょこっと情報をいじれば、あっけなくロボットたちは俺たちを通してしまった。
 さすがに新生児室には人間の見張りがいたが、俺たちは廊下の陰に隠れて見張りが立ちさるのを待ち、その部屋に入り込み、赤ん坊のラミエルを見つけた。ラミエル自身が過去の自分に直接手を触れると危険かもしれない。だから俺が赤ん坊のラミエルを抱き上げて宇宙服に包み、ラミエルが赤ん坊の麻耶を新生児用カプセルに寝かせた。
 赤ん坊の麻耶は何も知らずにぐっすり眠っている。さらばだ、妹よ。お前はこの星でもっと幸せな人生を送るんだ……
 柄にもなく少しセンチメンタルな気分になったが、俺は男らしくきっぱりと妹に別れを告げ、赤ん坊のラミエルを連れて十六年前の地球へ引き返す。赤ん坊のラミエルを、さっきまで麻耶が寝ていた新生児用ベッドにそっと置き、途中巡回中の看護婦さんに危うく見つかりそうになりながらも、なんとか病院から誰にも気づかれずに抜け出した。
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