たとえばの明日に花束を




教室に入ると、早速耳に着いたのは志紀の記憶喪失の噂だった。


「おはよう…天音」

「麗子、おはよう……」

「今日…行くの?」


麗子はお見舞いに行くのかと尋ねたのだろう。



「……行かない、かな…」

「…そう。

いつか行きなさいよ」


大げさだな。

病院は…近いうちに必ず行くのに。


その時は麗子の真意が分からず

黙って首を縦に振った。





「おはよう!!」


にぱっという効果音がふさわしい笑顔で沢渡さんが立っていた。



「今日ねぇ、真綾~志紀くんのお見舞いに行くんだぁ。

天音ちゃん来ないみたいだしぃ、絶対来ないでねぇ」

「ちょっと、そんな言い方…」

「一生とは言ってないじゃない。今日限定で来ないでねっ」



沢渡さんは言いたいだけ喋り、またどこかへ駆けだした。


―今日だけ来ないで…?



何か嫌な予感が胸をよぎり、私は今日内緒で行くことに決めた。
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